5S活動を定着させるために欠かせないのが「5S会議」。
しかし、現場でよく耳にするのは「意見が出ない」「形骸化して続かない」といった悩みです。
本来の会議は単なる報告の場ではなく、現場の知恵を引き出し、小さな改善を積み重ねていくための仕組みです。特にボトムアップ型の会議を取り入れることで、心理的安全性が高まり、全員が主体的に意見を出し合えるようになります。その結果、即効性のある改善が次々と実現し、組織全体の熱量が循環していきます。
本記事では、正しい5S会議の進め方を具体的に整理し、現場が動き出す仕掛けづくりのポイントを解説します。
もくじ
会議の基本的な考え方と進め方
5S会議は、単なる報告会や形式的な集まりではありません。社員一人ひとりが主体的に考え、行動するための重要な場です。ここでの会話の質が、そのまま職場の風土を形づくっていきます。
ここでは、報告会で終わらせないための“会議観”と基本の進め方を先に共有します。
単なる報告ではなく「主体性を育む場」
「やらされ感」で報告だけを繰り返す会議は、すぐに形骸化してしまいます。会議の本来の目的は、現場で起きている問題を出し合い、改善のアイデアを共有し、次の行動を決めること。つまり、社員自身が考え、決め、動くための仕掛けなのです。
全員参加とボトムアップ進行
役職や立場に関係なく、全員で意見を出し合うことが原則です。上司やリーダーが一方的に指示するのではなく、現場からの意見を吸い上げて改善につなげる形式が理想です。この仕組みが当事者意識を育み、活動を「自分たちのもの」に変えていきます。
目的とゴールの共有
会議を始める前に、「なぜ5S会議をするのか」「どんな職場を目指すのか」という目的とゴールを明確にしておくことが大切です。ゴールが曖昧だと意見も散漫になりがちですが、方向性が共有されていれば、話し合いが自然と具体的かつ建設的になります。
ボトムアップ会議の目的と効果
5S活動を成功させるためには「現場が主役」になることが欠かせません。ボトムアップ会議は、単なる情報共有や指示伝達の場ではなく、現場の知恵や経験を引き出し、改善を加速させるための仕組みです。
では、この会議観がもたらす具体的な効用を整理します。
発言量の増加でアイデアが広がる
上から与えられた指示に従うだけでは、どうしても現場の声が埋もれてしまいます。会議をボトムアップ型に変えることで、一人ひとりが発言しやすくなり、普段見落とされがちな改善点や新しい発想が引き出されます。
心理的安全性が高まり、挑戦が進む
否定されることなく意見を出せる環境が整うと、メンバーは安心して発言できるようになります。結果として、小さな改善提案から大きな改革につながる挑戦まで、幅広いアイデアが積極的に出るようになります。
具体施策の合意形成が早い
全員で話し合って決めた対策は「やらされ感」がなくなり、実行率が飛躍的に高まります。さらに、役割や期限を明確に決めることで、改善がスピーディーに進み、成果が目に見えて積み上がっていきます。
全員で決めた小さな改善が動くと、探し物が減る・掃除が楽になる等の即効の実感が生まれます。
その実感の共有が次の発言と行動を呼び、会議が“熱量の循環”に変わります。
会議の基本原則(コーチング3技法)
ボトムアップ会議の要は「答えを与える」のではなく、「答えを引き出す」ことにあります。そのために有効なのが、コーチングの基本となる3つの技法です。
1. 聴く ― 相手の言葉を遮らず、最後まで耳を傾ける
現場メンバーが意見を出すとき、途中で口を挟んだり、すぐに結論を出そうとしたりすると、発言は続きません。沈黙も大切な時間と捉え、最後まで聴く姿勢を示すことが、発言を増やす第一歩になります。
2. 認める ― 小さな意見も価値ある気づきとして受け止める
「なるほど」「そういう考え方もあるね」といった承認の言葉やうなずきは、発言者に安心感を与えます。特に小さな改善提案や当たり前に思える意見こそ、積み重ねることで大きな変化につながります。否定せず認める姿勢が心理的安全性を高め、会議全体の空気を温めるのです。
さらに、5S活動は成果が見えるまでに時間を要するため、成果そのものではなく行動を認めることが重要です。これまでやっていなかったことに一歩踏み出しただけでも承認し、評価する。その積み重ねが承認欲求を満たし、次の挑戦意欲を生み出していきます。
3. 質問する ― 答えを導く“きっかけ”を投げかける
「どうすればもっと楽になる?」「最初の一歩は何だろう?」といったオープンクエスチョンは、メンバー自身に考える機会を与えます。答えを提示するのではなく、問いを通して気づきを引き出すことで、現場主体の改善行動へとつながります。
この3技法を組み合わせると、会議は指示命令の場から、学びと気づきの場へと変わります。ファシリテーターは“正解を持っている人”ではなく、“答えを引き出す人”に徹することが成功のカギです。
引き出された意見が“最小一歩”として動けば、それ自体が成功体験となり、次回の発言の土台になります。
効果的な会議運営の体制
会議を「全員が参加する場」にするには、進め方に工夫が必要です。特に、参加者が意見を出しやすくなる仕掛けを組み込むことがポイントです。
少人数グループでの実施
大人数の会議では、どうしても発言が偏り「ひとごと感」が出やすくなります。4〜6人程度の少人数グループに分けて話し合うことで、一人ひとりが意見を出しやすくなり、当事者意識も高まります。
リーダー・上司の役割
- 意見を引き出す:
漠然と「意見はありますか?」と聞くのではなく、「○○さんはどう思いますか?」と具体的に名前を呼んで質問すると、発言が増えます。 - 否定しない:
自分の考えと違っていても、頭ごなしに否定してはいけません。まずは「なるほど、そういう考え方もあるね」と受け止めることが大切です。否定されると、その瞬間に場の空気は冷えてしまいます。 - 率先垂範:
会議で決まったルールを上司自身が守る姿を見せることで、信頼が生まれ、活動が浸透します。
定期開催とPDCAサイクル
会議は一度きりではなく、定期的に開催することが前提です。特に月に一度は活動を振り返る時間を設けましょう。
- 月例会議:
進捗の確認、課題の抽出、次のアクションの決定。 - PDCAを回す:
「計画(Plan)→実行(Do)→振り返り(Check)→改善(Act)」を繰り返すことで、活動は定着します。 - KPT法の活用:
Keep(良かったこと)、Problem(問題点)、Try(次に試すこと)を付箋などで出し合うと、振り返りが整理され、改善につながります。
計画と合意形成のポイント
会議で出た意見をそのままにしておくと、次につながらず形骸化してしまいます。発言を行動計画に落とし込み、全員で合意することが、5S会議を実効性のあるものにするための肝です。
5W1Hで具体的に決める
「いつ・誰が・どこを・何を・なぜ・どうやって」という5W1Hの形で計画を具体化することが重要です。
- ×「時間があるときにやる」
- ○「来週の火曜までに、Aさんが倉庫の整理を実施し、不要品リストを作成する」
このように誰が見ても明確な形に落とし込むことで、進捗管理が容易になり、実行率が高まります。
複数意見が出た場合の進め方
複数の意見が出た際に、リーダーや上司が独断で決めてしまうと、参加者は納得感を持ちにくくなります。そこで、
- 「Aさんの意見について、Bさんはどう思いますか?」
と問いかけ、議論を深めながら合意形成を進めます。
こうした対話のキャッチボールを重ねることで、最終的に目的に合った最適解に収束しやすくなります。
定着の仕組み化
5S会議で決まったことを実行し続けるには、「やる気」や「気合い」だけに頼ってはいけません。仕組み化と見える化が不可欠です。
決定事項の共有と周知
会議で決まったルールやアクションは、その場で終わらせず 掲示板や朝礼で繰り返し共有 しましょう。誰もがいつでも確認できる形にすることで、「知らなかった」「忘れていた」という事態を防げます。
ルールを守れる仕組みをつくる
トヨタ生産方式にもある「人を責めるな、仕組みを責めろ」という考え方の通り、できない原因は人ではなく仕組みにあります。
- チェックリスト化
- 見える化(写真・色分け・標示)
- 定位置・適正量のルール徹底
こうした仕組みをつくることで、自然と正しい行動が定着していきます。
標準化と継続改善
一度決めたルールも「それで終わり」ではなく、標準化 → 振り返り → 改善を繰り返すことが重要です。月例会議や小集団活動を通じてルールを見直し、常に現場に合った形に進化させていくことで、5Sは企業文化として根付いていきます。
よくある失敗と改善策
5S会議を導入しても、やり方を誤ると「発言が出ない」「結局何も変わらない」といった結果に陥りがちです。ここでは代表的な失敗パターンと、その改善策を整理します。
上司が答えを出してしまう
失敗例:参加者の意見を聞いた直後に「じゃあこうしよう」と上司が結論を出してしまう。
改善策:答えは出さずに質問を重ね、現場から引き出す姿勢を徹底する。会話はキャッチボールを繰り返すことが大切です。
否定的な意見を潰す
失敗例:「そんなの無理だ」「前にもやったけどダメだった」と頭ごなしに否定する。
改善策:まずは「そういう考え方もあるね」と受け止める。否定せず受容することで心理的安全性が確保され、発言が続きます。
計画が曖昧で期限不明確
失敗例:「時間があるときにやろう」「気づいた人がやる」といった曖昧な決め方。
改善策:5W1Hで「誰が・いつまでに・どこで・何を・どうやって」を明確化する。担当と期限がなければ実行率は上がりません。
会議が形骸化する
失敗例:定期的な開催を怠り、いつの間にか会議がなくなってしまう。
改善策:月に一度の振り返りを必ず実施する。KPT法やPDCAサイクルを取り入れ、改善の流れを途切れさせないことが大切です。
まとめ:小さな成功体験の連鎖が文化を変える
5S会議を効果的に続ける秘訣は、立派な計画や大きな成果ではなく、小さな成功体験の積み重ねです。
そのためには、安心して意見を交わせる場をつくり、一歩踏み出した行動を認めていくことが欠かせません。
「置き場を変えたら探し物が減った」「掃除ルールを決めたら異常に早く気づけた」――こうした一歩一歩の改善が職場を変えていきます。やらされ感で始まった会議が「自分たちで良くしている」という実感に変わるとき、5Sは単なる整理整頓を超え、企業文化を育てる活動へと進化します。
ボトムアップ会議は、その変化を生み出す原動力です。小さな前進を全員で共有し、次の改善につなげる。その積み重ねが未来の強い組織を形づくります。