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トヨタの『ポケテナシ』とは? 5つの行動指針と安全標語の目的を解説

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「安全第一」という言葉は多くの現場で聞かれる標語ですが、その言葉を具体的な行動に落とし込み、徹底している企業として知られるのがトヨタ自動車です。

そのトヨタが提唱する安全標語の一つが「ポケテナシ」です。

 

「ポケテナシ」という言葉は、一見するとユニークで親しみやすい響きがありますが、その背後には徹底した安全意識と、現場での事故を未然に防ぐための深い考えが込められています。

本ブログでは、この「ポケテナシ」とは具体的に何を意味するのか、どのような背景で生まれたのか、そして現場においてどのように活用されているのかを掘り下げていきます。

ポケテナシとは?トヨタの安全標語の意味と目的を解説

「ポケテナシ」とは、トヨタ自動車が現場での事故を未然に防ぐために提唱した安全標語です。この言葉は、**「安全意識を高める5つの行動指針」**の頭文字を組み合わせた造語です。一見、ユニークで覚えやすいこの言葉には、現場での安全を守るための重要なポイントが詰まっています。

「ポケテナシ」の5つの行動指針

それでは、この「ポケテナシ」に含まれる5つの具体的な行動指針を見てみましょう。

ポ:ポケットに手を入れて歩かない

手をポケットに入れたまま歩くと、転倒した際に手で体を支えられず、大けがにつながる恐れがあります。

そのため、作業現場では「ポケットから手を出し、いつでも安全に対処できる状態を保つ」ことが基本とされています。

ケ:携帯電話を歩きながら使用しない

歩きながらスマートフォンや携帯電話を使用すると、注意力が散漫になり、周囲の状況を把握できなくなります。

これにより、他の作業者やフォークリフトとの衝突といった危険が生じる可能性があります。

テ:階段の昇り降りは手すりを持つ

階段の上り下りは、特に現場作業中には大きなリスクを伴います。

転倒や落下を防ぐために、必ず手すりを持って行動することが推奨されています。

ナ:斜め横断をしない

現場での移動中に斜めに横断すると、他の作業者や移動物の動きを見落とすリスクが高まります。

直線的に移動することで、周囲の状況を把握しやすくなり、事故を防ぐことができます。

シ:指差呼称の徹底

「指差呼称」とは、指を差して確認し、声に出して呼称する動作のことです。

例えば、横断歩道を渡る際に「右ヨシ、左ヨシ」と指を差しながら確認することで、事故防止に努めることができます。

トヨタでは、構内で勤務するすべての従業員がこのルールを厳守しています。

「ポケテナシ」の由来と活用

このように、「ポケテナシ」は日常的に発生しやすい「ちょっとした不注意」を防ぐための基本動作を体系化したものです。

トヨタではこれを単なる標語に留めることなく、現場の安全教育や日々の安全パトロールで徹底的に浸透させています。

 

「ポケテナシ」のような安全標語は、現場における具体的な行動指針として日常業務に取り入れられています。

このような取り組みは、トヨタが長年重視している5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の精神とも深く結びついています。

 

5S活動では、「しつけ」によって全員がルールを守り、安全で効率的な現場環境を保つことが重視されています。

「ポケテナシ」も、日常的な意識づけと習慣化を通じて、現場の安全を確保するための指針といえるでしょう。

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さらに、企業によっては「ポケテナシ」に独自のアレンジを加えて「ポケテハナシ」(※「走らない」を追加)とする例もあります。

ただし、トヨタでは「走らない」はすでに常識とされており、標語に含める必要がないとされています。この点もトヨタの安全文化を象徴しているといえるでしょう。

 

 

「ポケテナシ」のような安全標語は、現場における具体的な行動指針として日常業務に取り入れられています。このような取り組みは、トヨタが長年重視している**5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)**の精神とも深く結びついています。
5S活動では、「しつけ」によって全員がルールを守り、安全で効率的な現場環境を保つことが重視されています。「ポケテナシ」も、日常的な意識づけと習慣化を通じて、現場の安全を確保するための指針といえるでしょう。

現場でのポケテナシ活動! 安全第一の取り組み事例

「ポケテナシ」は単なる標語にとどまらず、トヨタの現場では具体的な行動指針として徹底されています。

その実践的な取り組みは、社員一人ひとりの意識改革を促すだけでなく、現場全体の安全レベルを引き上げる重要な役割を果たしています。

日々の安全パトロール

トヨタでは、「ポケテナシ」の5つの行動指針が正しく守られているかを確認するために、安全パトロールが日常的に行われています。

安全パトロールの担当者は、現場を巡回し、作業員が指針を守っているかどうかをチェックします。例えば、以下のような点に注意を払っています。

  • ポケットに手を入れたまま歩いていないか?
  • 携帯電話を使用しながら歩いている作業員はいないか?
  • 階段の手すりを使用せずに昇り降りしていないか?
  • 斜め横断や無秩序な移動が見られないか?
  • 指差呼称がきちんと実施されているか?

パトロールの際に指針に違反している行動が見つかった場合、その場で注意を促すだけでなく、なぜその行動が危険なのかを説明し、従業員に安全の重要性を理解させます。

この「その場での教育」という姿勢が、トヨタの安全文化の強さの一因となっています。

「ヒヤリハット」を見逃さない

現場での安全活動では、いわゆる「ヒヤリハット」の事例を積極的に共有することも重要視されています。

「ヒヤリハット」とは、実際に事故には至らなかったものの、事故の一歩手前で危険を感じた事例を指します。

これらの事例を洗い出し、記録し、分析することで、再発防止につなげています。

 

例えば、以下のような例が挙げられます。

  • 携帯電話を見ながら歩いていた作業員が、フォークリフトと接触しそうになった
  • 階段を駆け下りた作業員が転倒しかけた
  • 指差呼称を怠ったため、機械操作時に一時的な誤作動が発生した

こうしたヒヤリハットの共有を通じて、社員全体がリスクへの感度を高め、安全意識を日常的に維持できるようにしています。

安全意識を根付かせる教育活動

新入社員や現場未経験の作業員にとって、「ポケテナシ」のような行動指針は最初はピンとこないかもしれません。

そのため、トヨタでは安全教育プログラムを通じて、この標語がなぜ重要なのかを具体的に教えています。

 

教育の中では、単なる説明だけではなく、実際の過去の事故事例やヒヤリハット事例を用いて、リアルなリスクをイメージさせます。

また、参加者同士で意見を交換することで、「自分の行動が他人に与える影響」について考える機会を提供しています。

「安全第一」の文化づくり

「ポケテナシ」を根付かせる取り組みの背景には、トヨタが長年培ってきた「安全第一」の文化があります。

この文化は、全社員が共有する価値観として、日々の業務のあらゆる場面に浸透しています。

 

例えば、トヨタでは上司や管理職も率先して「ポケテナシ」を実践することで、従業員への模範となっています。

このように、全員参加型で安全意識を高める仕組みが、現場での実効性を高めています。

 

ポケテナシの重要性と安全文化を支える理由

「ポケテナシ」のような安全標語は、一見すると細かい注意事項の集まりに見えるかもしれません。

しかし、これを徹底することがいかに重要かを理解するには、安全管理の基本となる考え方や、現場での影響について知る必要があります。

その背景には、「ハインリッヒの法則」や安全最優先の重要性が深く関わっています。

ハインリッヒの法則とは?

「ハインリッヒの法則」とは、労働災害における事故発生の法則を示した理論です。

この法則では、1件の重篤な事故の背後には29件の軽度な事故があり、そのさらに背後には300件の「ヒヤリハット」が存在することが指摘されています。

 

具体的には以下のような構図です:

  • 1件の重篤な事故(例:死亡や重傷)
  • 29件の軽度な事故(例:小さなケガや物損)
  • 300件のヒヤリハット(例:事故には至らなかったが危険を感じた出来事)

この法則の重要なポイントは、軽度な事故やヒヤリハットを放置すると、いずれ重大な事故が発生するリスクが高まるという点です。

そのため、軽度な事故やヒヤリハットの段階で対策を講じることで、重大な事故の発生を未然に防ぐことができます。

 

「ポケテナシ」の5つの行動指針も、この考え方を基盤にしています。

現場での「ちょっとした不注意」が積み重なることで、大きな事故に繋がる可能性があるため、日常的な行動の中で危険要素を排除することが極めて重要なのです。

重篤な事故がもたらす影響

トヨタをはじめとする製造業の現場では、重篤な事故が発生すると、単に当事者だけではなく、企業全体に大きな影響を及ぼします。以下に、その主な影響を挙げてみます。

1. 作業者やその家族への影響

重篤な事故によって、作業者が死亡したり、再起不能となるような大けがを負った場合、本人だけでなくその家族にも大きな悲しみと負担がのしかかります。これが安全意識を徹底する最大の理由の一つです。

2. 生産停止や顧客への影響

事故が発生すると、現場の生産ラインを一時的に停止する必要が生じます。これにより、製品の納期に遅れが生じ、取引先や顧客に迷惑をかける可能性があります。さらに、場合によっては、事故の調査や補償対応に追われ、会社全体の業務に支障が出ることもあります。

3. 企業の信頼と経営へのダメージ

重大な事故を繰り返す企業は、業界内外からの信頼を失うリスクがあります。また、製品品質や現場管理能力への疑念が生じ、ブランドイメージの低下や市場競争力の喪失につながる可能性もあります。

4. 社員のモラルやモラールの低下

事故を防ぐための環境整備やルールが徹底されていない職場では、社員の安全意識が低下し、モラルやモチベーションが下がることがあります。これにより、作業効率や品質管理にも悪影響が出る可能性があります。

「ポケテナシ」の重要性

「ポケテナシ」は、こうした重篤な事故を未然に防ぐための最前線の取り組みです。

その狙いは、日常の「小さな注意」を徹底することで、大きなリスクを回避することにあります。

 

安全パトロールやヒヤリハットの共有を通じて、現場全体で安全意識を高める取り組みが行われているのは、このためです。

現場での安全意識や規律の徹底は、作業の「バラツキ」を減らすことにもつながります。トヨタの生産方式で重視される「バラツキ管理」と「ポケテナシ」の関係について詳しくはこちらをご覧ください。

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ポケテナシの効果とは?トヨタが目指す安全意識の未来

トヨタが掲げる「ポケテナシ」の取り組みは、単なる標語を超えた実践的な安全活動として、現場での事故防止に大きく寄与しています。

この取り組みがもたらす具体的な効果や、今後の可能性について考えてみましょう。

「ポケテナシ」がもたらす具体的な効果

1. 事故を未然に防ぐ意識の醸成

「ポケテナシ」の5つの行動指針を現場で徹底することで、日々の作業中に「ちょっとした不注意」を防ぐ意識が自然と根付いていきます。

この日常の意識の積み重ねこそが、重大事故を未然に防ぐための最も強力な対策となります。

 

例えば、携帯電話を見ながら歩くことをやめたり、階段の昇り降りで手すりを持つことが習慣化されれば、転倒事故や衝突事故といったリスクが大幅に低減されます。

このように、**「気づかないうちに事故のリスクを減らす」**のが、「ポケテナシ」の大きな効果の一つです。

2. 安全意識の向上がもたらすプラスの連鎖

安全意識が高まることで、現場全体に良い影響を与える「プラスの連鎖」が生まれます。以下のような成果が期待できます:

  • 作業効率の向上:安全を意識することで、無駄のないスムーズな作業が可能に。
  • 品質の向上:安全に配慮した行動は、製品の精度や信頼性を高めることにも繋がります。
  • チームの結束力向上:安全意識を共有することで、現場全体の一体感が強まります。

3. 企業としての信頼性の向上

トヨタの「ポケテナシ」のような安全活動は、社内だけでなく、取引先や顧客、さらには社会全体からの信頼を高める効果があります。

特に製造業では、安全性が高い企業=信頼できる企業という評価を受けることが多いため、これが企業価値の向上にもつながるのです。

今後の期待される展開

1. 他企業や業界への広がり

「ポケテナシ」のような具体的でわかりやすい安全指針は、トヨタ以外の企業や業界にも応用可能です。

すでに一部の企業では「ポケテナシ」をアレンジした「ポケテハナシ」が採用されていますが、今後さらに多くの企業で「日常の不注意を防ぐ安全行動」が広まることが期待されます。

2. デジタル技術との融合

安全管理の分野では、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といったデジタル技術の活用が進んでいます。

例えば、作業員が「ポケテナシ」の行動指針を守れているかをセンサーやカメラで確認し、リアルタイムでフィードバックを提供するシステムが導入される可能性があります。

3. 安全教育プログラムの進化

「ポケテナシ」を伝える安全教育も、さらに効果的なものに進化するでしょう。

例えば例えば、VR(仮想現実)を使って実際の危険な状況を体験し、安全行動の重要性をリアルに理解できる教育プログラムが普及することで、若手社員や未経験者の意識改革がよりスムーズになることが期待されます。

安全文化の未来へ

「ポケテナシ」は、単なるスローガンではなく、現場で働く人々の命を守るための具体的な行動指針です。

その取り組みが日々の現場で確実に実践されることで、作業環境が安全に保たれ、従業員の健康や企業の信頼性が守られています。

 

今後は、こうした安全文化がさらに進化し、より多くの業界や企業に広がることで、社会全体が「安全第一」を共有する時代が訪れることを期待したいものです。

 

まとめ

トヨタが提唱する「ポケテナシ」は、現場での事故を未然に防ぎ、安全意識を高めるためのシンプルかつ効果的な行動指針です。

この標語に含まれる5つの行動、すなわち「ポケットに手を入れて歩かない」「携帯電話を歩きながら使用しない」「階段の昇り降りは手すりを持つ」「斜め横断をしない」「指差呼称の徹底」は、どれも現場で発生しがちな「ちょっとした不注意」を排除するための基本的なルールです。

「ポケテナシ」が示すメッセージ

「ポケテナシ」の意義は、単なる注意喚起に留まりません。この標語の背景には、軽度な事故やヒヤリハットが重篤な事故につながるリスクへの理解や、それを防ぐための継続的な取り組みが込められています。

トヨタが安全を最優先する姿勢は、「ハインリッヒの法則」を基盤にしており、現場の安全が守られることが製品品質の向上や企業としての信頼性の維持にもつながるという考え方が徹底されています。

 

また、「ポケテナシ」は現場の安全を守るだけでなく、社員一人ひとりの行動意識を高め、チーム全体の結束力を強める効果もあります。

結果として、安全意識の向上は、企業の生産性や品質向上にも寄与する「プラスの連鎖」を生み出しているのです。

忘れたころに起きる事故を防ぐために

「事故は忘れたころに起きる」という言葉がありますが、この言葉は単なる警句ではありません。

日常的な安全確認や行動指針の実践がいかに大切かを示すものです。

「ポケテナシ」は、こうした日常の中での「安全意識の習慣化」を目指しており、現場に浸透することで、重大な事故の発生を未然に防ぎます。

今後に期待される展開

トヨタの「ポケテナシ」に象徴される安全文化は、今後さらに進化し、他の企業や業界にも広がることが期待されています。

また、デジタル技術や新しい教育手法との融合によって、より効率的で効果的な安全管理が可能になるでしょう。

 

安全は「第一」に優先されるべき重要な要素であり、企業活動の基盤となるものです。

トヨタの「ポケテナシ」は、社員や現場を守るための具体的な指針として、多くの人々にとって参考になる取り組みです。

私たち一人ひとりも、このような安全の考え方を日常生活や職場で取り入れることで、より安全で快適な環境を実現していくことができるのではないでしょうか。

 

  • この記事を書いた人

Smile System Support

㈱Smile System Support 代表。保険会社の営業、ウェディングプランナーを経て、5S活動講師・コンサルタントとして起業。5S活動を手段とした社員育成と企業風土改革を支援している。

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